お話を聞いたのは……小池紀子さん
「写真好き」が縁で、結婚式も指輪もないまま“0日婚”をした小池徹さん、紀子さん夫妻。結婚生活20年となる2024年春、小池夫妻を突然の出来事が襲う。それから1年余。紀子さんは、趣味であった“ライカ(クラシックカメラ)”片手に撮り続けた、つつましくもあたたかな日々の写真を文章と共にSNSで発信。そのうちの1枚の写真に16万人が涙した。
『ふうふ写真散歩』飛鳥新社
著者:小池紀子
定価:2,640円(税込)
16万人が”いいね”したXの投稿
――『ふうふ写真散歩』は、どのような経緯で出版が決まったのでしょうか。
去年の秋、X(旧twitter)に結婚写真を投稿しました。「ここに座って、と言われてセルフタイマーで撮ってくれた結婚写真。20年間一緒にいられるだけでシアワセだった」という短い文章と共に投稿したところ、16万人の方から“いいね”をいただき、同時にたくさんのコメントを寄せていただきました。
東京での夫婦生活スタート直後に撮った1枚。式も指輪もない唯一の“結婚記念”
――どのようなコメントが届いたのですか?
「20年経ってそう思える夫婦って、奇跡のような方たちだと思う」とか、「どんな豪華な婚礼写真よりも素敵ですね」といったコメントが届きました。その中に、『ふうふ写真散歩』の出版社である飛鳥新社の編集者の方から、「本を出版しませんか?」というコメントが届いたんです。
――その投稿が出版のきっかけになったんですね。
そうです。人生でこんな経験は初めてだったので、本当に驚きました。「本物かな?」と思い、カメラ仲間に確認をしたくらい(笑)。その後、編集者の方とメールのやりとりをして、ZOOMでお話をさせていただき、出版を決めました。
意識不明の夫と築いた20年の写真人生
――出版しようと思った決め手はなんですか?
夫は、1年前……2024年の春に不慮の事故に遭いまして……、今も意識不明の状態で入院中なんです。学生の頃から長年写真を撮り続けてきた夫は、常々、「写真で自分を残したい」と話していました。私たち夫婦の20年間の写真人生を、本という形で残せるというのは願ってもないことでしたし、夫が残してくれた写真を多くの方に見てもらいたいと思いからお引き受けさせていただきました。
――写真と一緒に、紀子さんのエッセイが掲載されることについてはどう感じられましたか?
もともと文章を書くのは好きなので、違和感なくお受けすることができました。私たち夫婦の20年間の写真人生を描けたらいいなと思って作った本なので、私たち夫婦の日常をエッセイと写真でお伝えすることができるのはすごくうれしかったです。
――エッセイで伝えたいと思ったことはどんなことですか?
例えば、私たちはけんかをしたことがないんです。友達から、「けんかをした」という話はよく聞くのですが、なぜけんかをするのかがわからないんです。私たち夫婦は、毎日2人で穏やかに笑って暮らしてきました。そういった”私たち夫婦の在り方”が、エッセイを通じて読者のみなさまに伝わると良いなと思いました。
一度もけんかをしたことがない秘訣は?
――けんかをしたことがないんですか!? 1回も? 言い争いとかもないですか。
ないですね。何を言い争うのか……。
――イラっとしたこともないですか?
主人はあると思いますよ。私はこんななんで(笑)。のんびり屋でモタモタしているので、きっとそういうところにイラっとしたことあると思うんですけど……。だからといって、何か言うようなことはなかったです。
――けんかをしない秘訣って何だと思いますか?
少しの思いやりと、「ありがとう」という感謝の言葉だと思います。私たち夫婦は、いつも、「ありがとう」を言いあっていました。その気持ちがあれば、夫婦としてのいろいろはだいたいうまくまわるんじゃないかなって。私はいつもそう思っていました。
――思いやりと感謝。特に、「ありがとう」という言葉を伝えるって大事ですよね。
入院している夫の面会に行くと、必ず最後に言う言葉があるんです。「私たちは2人で1つだからね。私たち夫婦は、どちらが欠けても成り立たない。今日も生きてくれてありがとう」って。
今の私は、夫が生きてくれているだけで充分幸せで、とにかく夫の温もりが心の支えです。20年間、日々とにかく一緒にいたいという気持ちだけで過ごしてきました。そして、その気持ちは、今も全く変わらないんです。
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今年の初め、Xに紀子さんの投稿がおすすめとして流れてきました。写真に添えられた言葉の端々から、旦那さんへの愛と寂しさが溢れていました。フォローをし、紀子さんの日々に勝手に寄り添うような気持ちになっていたとき、書籍化のことを知り、すぐに編集部へ「インタビューをしたい!」と連絡をして、このインタビューが実現しました。
「夫婦は続くよどこまでも」。まさに、このインタビュー企画名の通りのご夫婦。
徹さんが意識不明になってから1年余。紀子さんは、その時間を徹さんと撮りだめた写真に支えられながら過ごし、徹さんの「写真で自分を残したい」という夢を叶えました。
このご夫婦のことをもっと知りたい! この連載を見て、きっとそう思った方は多いはず。
次回は、お二人の出会いや結婚までの流れについてのお話です。