教えてくれたのは……安江 千尋先生

天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック院長。日本消化器病学会専門医。がん研究会有明病院下部消化管内科のスタッフとして、約8年にわたり数多くの内視鏡検査や治療、レジデントの指導に従事。「胃がんや大腸がんでお亡くなりになる方をゼロにする」という理念のもと、専門性を生かした診療に取り組んでいる。
大腸がんは「初期症状」がない?自覚しにくい理由とは
前回の記事では「大腸がんの発生・進行の仕組みや、病変の特徴」についてご紹介しました。早期発見が大切な大腸がんですが、初期には自覚症状がほとんどないといいます。その理由について、安江先生に教えていただきました。
安江先生「大腸がんは、早期の段階ではほとんど自覚症状がないことが大きな特徴です。その理由は、大腸の内側に小さながんができても、初期には便の通過を妨げたり、強い痛みを引き起こしたりすることが少ないためです。
また、大腸の粘膜の表面は、皮膚のように小さな傷や病変を痛みとして感じる仕組みではありません。そのため、がんができていても、本人がまったく気づかないことがあります。実際に、腹痛や便通異常などの症状がなく、健康診断の便潜血検査をきっかけに大腸カメラを受けたところ、早期の大腸がんが見つかるケースもあります」
がんができる場所によって「症状の現れ方」が異なることも
安江先生によると、大腸がんは発生する場所によって症状の特徴が異なることもあるそうです。それぞれの特徴を知ることも、体の変化に気づくきっかけになります。
1.右側の大腸にできた場合
安江先生「盲腸や上行結腸などの右側の大腸では、便がまだ比較的柔らかく、腸の内腔も比較的広いため、がんができても便の通過が妨げられにくい傾向があります。
そのため、便秘や腹痛が目立たないまま、がんから少しずつ出血し、鉄欠乏性貧血をきっかけに発見されることがあります。疲れやすさ、息切れ、動悸などが、最初の症状となる場合もあります」
2.左側の大腸にできた場合
安江先生「下行結腸やS状結腸では、便がある程度固まっているため、がんによって腸の内側が狭くなると、便秘や便通の変化、腹痛、お腹の張りなどが現れることがあります」
3.直腸にできた場合
安江先生「肛門に近い直腸では、血便や、排便しても便が残っているように感じる残便感などが現れることがあります。ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、発生部位だけで症状が決まるわけではありません」
大腸がん検診は「40代から」受けるべき?
「まだ大きな病気とは無縁」と考え、自分の健康をつい後回しにしがちな40代。しかし40代は、大腸がんの早期発見に向けて検診を意識したい年代です。
40代は、大腸がんの予防と早期発見を意識し始めたい重要な年代
安江先生「40代から大腸がんの罹患率が上昇し始め、50代、60代と年齢が高くなるにつれてさらに増加していきます。ただし、40歳になった途端に急に大腸がんのリスクが高くなるわけではありません。年齢とともに少しずつリスクが高まっていく中で、40代は、症状がなくても定期的な検診を意識したい年代です。
大腸がんは、多くの場合、長い年月をかけて発生・進行します。そのため、50代や60代で大腸がんが見つかった方でも、それ以前から大腸にポリープなどの病変が存在していた可能性があります。
検診は、症状が現れる前の大腸がんを発見し、治療につなげるという意味があります。また、検診で異常を指摘されて大腸カメラを受けた際に、将来がんになる可能性のあるポリープが見つかり、適切に切除できる場合もあります」
「まだ若いから大丈夫」と考えるのは危険?
40代から検診を意識することが大切ですが、若い年代でも大腸がんを発症する可能性はあるとのこと。安江先生によると、特に家族に大腸がんを発症した人がいる場合は、遺伝的な要因にも注意が必要なのだそうです。
家族の病歴もリスクを考える手がかりに
安江先生「頻度は低いものの、20代や30代でも大腸がんが発生することがあります。特に、若い年齢で大腸がんを発症した家族がいる場合や、家族に大腸がんを発症した人が複数いる場合には、遺伝的な要因も考慮する必要があります。
また、多数の大腸ポリープができる遺伝性疾患もあります。ただし、家族に大腸がんの方がいるからといって、必ず遺伝性の大腸がんになるというわけではありません。家族の誰が、何歳頃に、どのようながんを発症したかという情報が、リスクを考えるうえで重要になります」
遺伝性の疾患「リンチ症候群」では、若年での発症リスクも
安江先生「リンチ症候群では、比較的若い年齢から大腸がんが発生することがあり、女性では子宮体がんや卵巣がんなどのリスクも高くなることが知られています。そのため、家族に大腸がんだけでなく、若くして子宮体がんを発症した方がいる場合にも、家族歴を医師へ伝えることが重要です」
大腸がんのリスクを考えるうえでは、年齢だけでなく、家族歴や生活習慣なども関係します。自分に当てはまる要因を知ることも、リスクを把握する第一歩です。次回の記事では、健康状態や生活習慣を振り返るきっかけになる「大腸がんのリスクチェックリスト」をご紹介します。




