教えてくれたのは……糖尿病専門医・田中 祐希院長
三鷹駅前たなか糖尿病・内科クリニック院長
「一人ひとりの幸せを応援」しながら、糖尿病専門医による治療を行う。クリニックホームページ内の院内紙にて、体験記、旬野菜の糖質オフレシピなど、お役立ち情報を公開中。
糖尿病と診断される基準値
糖尿病の診断には、以下の基準値が用いられます。
- 「HbA1c」の数値
HbA1cは、概ね過去1か月の血糖値を反映する指標のことで、糖尿病の診断基準は6.5%以上とされています。
- 空腹時血糖値
健診では朝食前血糖値を調べることが多く、空腹時血糖値 110mg/dl未満は正常、110-125mg/dlは境界型糖尿病域、126mg/dl以上で糖尿病域とされています。
事例1.インプラント治療前の検査で判明した糖尿病(48歳女性)
気づいたきっかけ・自覚症状
1年前に歯科でインプラントが可能かどうかの事前検査で、HbA1c 12.3%、朝食前血糖 210mg/dlと高値であることが判明し、2型糖尿病の診断を受けて近くの医院に通院していました。
内服治療を開始したものの、HbA1c 9%台と高い状態が続いたため、専門の糖尿病内科での治療を希望して、当院を受診しました。
改善・治療方法
初診時は内服治療を行っていましたが、HbA1c 11.5%、随時血糖 363mg/dlと血糖コントロール不良でした。また、身長 157cm、体重 77kg(BMI 31.2kg/m2)で高度の肥満も認めました。
さらに、糖尿病性腎症の指標である尿中アルブミンもACR 280mg/gCreと高値であり、腎症も2期へ進行している状態でした。
糖尿病による腎障害は、正常な状態の1期から、すでに透析を実施している5期までの5段階に分けられます。各段階は尿中アルブミン量によって区分けられ、1期では尿中アルブミン(ACR)は3mg/gCre未満とされています。
過食を止めることができなかったため、体重減少と腎症の改善を目的として、SGLT-2阻害薬とGLP-1受容体作動薬を内服治療に追加しました。
◆SGLT-2阻害薬とは
糖尿病の治療薬の一種で、内服により1日400kcal程度の糖が尿中に排泄されるようになり、血糖の改善と体重の減量が期待されます。腎症の改善に有用であることが知られています。
◆GLP-1受容体作動薬とは
内服薬と自己注射薬があり、血糖を下げる作用に加えて腸管に作用し、食欲の制御や減量効果が期待できるものです。適正体重への減量も、腎症の改善に良いとされています。
治療開始後、体重は61kg(BMI 24.7kg/m2)まで減量、HbA1cは6.7%まで改善。腎症の指標である尿中アルブミン(ACR)についても、13mg/gCreの正常域まで改善され、インプラント治療が実施可能となりました。
糖尿病の人が正常域まで数値が改善せずにインプラント治療を受けると、血糖コントロールが不十分となり、傷の治りが悪かったり、創部感染を起こしやすくなったりするリスクが考えられるため、注意が必要です。
事例2.腹部のCTスキャンで判明した糖尿病(45歳女性)
気づいたきっかけ・自覚症状
他院で腹部のCTスキャンを受けた際に高度の脂肪肝を指摘されたため、内科の精密検査として血液検査を行ったところ、採血でHbA1c 9.6%、早朝空腹時血糖175mg/dlと高値を認めました。糖尿病専門の内科で精密検査と治療を受けることを勧められ、当院を受診しました。
改善・治療方法
初診時はHbA1c 9.4%、早朝空腹時血糖 167mg/dlで、検査の結果2型糖尿病と診断。
身長160cm、体重78.0kg(BMI 30.4kg/m2)の高度肥満を認め、GLP-1/GIP-1受容体作動薬の自己注射を週1回で少量から開始し、徐々に増量していきました。
GLP-1/GIP受容体作動薬は腸管に作用して食欲を抑える傾向とがあるため、これまでやめられなかった間食をしなくなったとのこと。以前は、米、パン、麺類の主食類を大盛りやお代わりすることが多かったそうですが、小盛でも満足できるようになり、減量も順調でした。
体重は66.5kg(BMI 25.9kg/m2)まで減り、HbA1cも9.4%から6.3%までに改善を認めました。
自覚症状だけでなく、ほかの医療機関での受診が糖尿病を発見するきっかけとなることもあります。糖尿病専門医の受診を勧められた際は、放置せずにすみやかに受診することが重要です。