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女の子がズボンをはくこと。「なにが恥ずかしいの?」【トイトイの問い 第88話】

カルチャー

2025.03.29

私たちの日常にある「あたりまえ」。「どうして?」と問われたとき、はっきりと理由を答えられるものはどれだけあるでしょうか。「あたりまえ」への疑問の答えは、きっとひとつではありません。 トイプードルのトイトイと、猫のモラ。2匹の視点から生まれた疑問に、あなたなりの答えを見つけてみませんか?

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連載:トイトイの問い

なにが恥ずかしいの?

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何が恥ずかしいのかな?

私の子どもたちは小さい頃から服を後ろ前に着たり、裏表逆に着たりします。私はいつもそれを無理矢理正しく直そうとしていました。
「どうして直さなければいけないのか」と抵抗されるたびに「間違った着方で外に出るのは恥ずかしいことだからだよ」だと答えていました。
しかし、ある日娘が言いました。

「あのさ、わたし、べつにはずかしくないんだけど」

それを言われて、必死で子どもの服を直そうとしているとき『あの親、子どもの服をきちんとしてあげてないんだなぁ』と思われてしまう…という思いが自分の中にあることに気づきました。子どもが服を間違った状態で着て外に出ることを気にしている理由は、子どもではなく親である私が恥ずかしいからだったのです。

成長してわかったところもあるのですが、子ども自身が背中にある絵を前にして着たくて前後逆に着たり、タグや縫い目が気になるから裏表逆に着たりしていることもあり…逆であることは間違いではなく、あえての理由があったこともありました。本人は自身のこだわりや感覚を優先していたのに、親の価値観を勝手に子どもに押し付けて本人が望まない着方をさせようとしていたんですね。

私自身も今回のお話のヒナタのようにスカートを履かない女児で、ジャージがお気に入りでした。中学に入学するとき、制服ではズボンも選択可能だったので「スカートではなくてズボンがいい」と主張したのですが「周りがみんなスカートなのに、あなただけがズボンだったら恥ずかしい思いをする」と言われ、それでも嫌だと泣いて抵抗しましたが結局親が私に買った制服はスカートでした。
そのときのことを、今でもたまに思い出します。

あのとき、もしもクラスの女子で私がたったひとりズボンだったとしたら『恥ずかしい思いをする』のは、私だったのでしょうか、親だったのでしょうか。

「そうしないと恥ずかしいよ」と声掛けをする人は、本人が恥ずかしい思いをするかもしれないという優しさからというより、自分自身が同じ立場だったら恥ずかしい・身内として恥ずかしいという自分の価値観を相手に押し付けているだけなのかもしれません。

最近私は、子どもへの声かけをこんな感じに変えました。
「あなたがそれでいいならそのままでもいいんだけど…その服、首周りが苦しかったりしない?服のデザイン的にはこっちが前で、後ろ側に首周りが広いほうが来てるんだ」

直すか直さないか、直さずに出先で誰かに何か言われたとして、恥ずかしいと感じるか感じないかは本人次第です。そういう言い方にしてからは、娘も時に前後を気にして、状況に応じて直したりするようにもなりました。

『周りから見て恥ずかしいかも』という自分の価値観を押し付ける前に、本人の気持ちをまず大切にしてあげたいですね。

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著者

水谷アス

水谷アス

発達障害のひとつ、自閉症スペクトラム障害(ASD)当事者でASD児育児中の母。 理屈っぽい変人と言われながら生きてきました。 そんな変わり者の思考をありのままに伝えることが未来の多様性理解のひとつに繋がることを願って、種まきのようにマンガ、文章、音声、様々な媒体で日々発信活動をしています。 読んだ人の心に新しい気づきが芽生えてくれたら嬉しいです。

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