何歳になっても「一期一会」がある
「一期一会」という言葉が好きだ。
“出会い”というのは若い頃に集中していて、年齢を重ねるとその数はどんどん減っていくもの。そんな風に思っていたけど、思いがけない素敵な出会いは何歳になっても変わらずにある。
そう感じられる出会いに恵まれた人生だと思う。今からちょうど2年前の夏、私たち家族に訪れた素敵な出会いもそのひとつ。
夏休み中の日曜日。昼間は暑すぎるので、気温が下がってから出かけようと決めて、お昼ごはんを食べながらテレビを見ていたら、家族でよく散歩に行く街が出ていた。
芸人さんとタレントさんが街ブラをする番組で、スタートはその街にある神社だった。私は行ったことがなかったけど、夫と娘は以前2人で散歩中に見つけて立ち寄ったことがあると言った。
「ねぇ、ママ! 今日、この神社に行こうよ! うさぎちゃんがいるんだよ!」
その日のお散歩先が決まった。
お散歩中に出会った素敵なご夫婦
普段よく行く街でも、何気なく歩いている時と違う目的を持って歩くだけで、「この道は通ったことがないなぁ」とか、「こんなところに路地裏が?」という発見がある。
テレビで見た神社を目指しながら歩くその道は、これまで一度も通ったことがない道だった。
目的の神社に向かっていると、店先にかわいいピアスが置いてあるお店を見つけた。お店の中を見ると、レザーアイテムがたくさん並んでいる。
「どうぞ、見ていって」
店の中から、このショップの奥さんが声をかけてくれた。店内には、白髪の髪を一つにまとめた渋い職人さんのご主人が座っていた。
お店の中も見せてもらうと、私がほしいなぁと探していた理想に近い形のバッグを発見。
「このバッグ、他にも色がありますか?」と聞くと、
「今あるのはこの色だけだけど、好きな皮でオーダーを受けますよ」
とのこと。
私は、置いてあるレザーの中から真っ白いレザーで選び、縫製はピンク色の糸で、名前の刻印もお願いした。
前世では親子だった?
テレビを見て、近くの神社に行こうと思ってきたと話すと、奥さんが、「うさぎちゃんがいるわよ。あとで私も行くから、一緒にうさぎちゃんのお世話しましょう」と言ってくれた。
レザーショップの奥さんは、毎日神社でうさぎのお世話をしているという。
ご縁のある人とは、意識せずとも自然と関係が築かれていく。あの日、あの時間、あの場所を通らなかったら出会うことがなかったかもしれないご夫婦と我が家は、その日を境に家族のような付き合いをするようになった。
週に2、3回、一緒に神社で時間を過ごし、どこかに行けばお土産を届け、奥さんが作る柚子味噌や梅酢をおすそ分けしてもらったり、私が作りすぎた夕飯のおかずをおすそ分けしたり。
娘にとっては、おばあちゃんとおじいちゃんができたような、私にとっては東京の父と母ができたような感覚。
不思議とリンクすることが多かった。お二人の結婚記念日と我が家の結婚記念日は1日違いだったり、二人の自宅の電話番号が私の誕生日だったり。
「不思議だよね。きっと、私たち前世で親子だったんだと思うわ」
ある時、私が笑いながらそう言うと、普段そんな話は全く信じないタイプの奥さんが、
「そうかしら。前世で親子ね……。そうかもしれないわね」と言った。
いつだって、会いたいときにフラッと行けばお店にはご主人が、神社には奥さんがいて、私たち親子は二人の存在に支えられていたけれど、この春に二人は35年続けてきたアトリエ・ショップを閉め、故郷へ戻られた。
突然のお別れに動揺したけど、高齢の二人の引っ越しをできる限り手伝い、最後にホームパーティーでおいしいものをたくさん食べて、夜遅くまで語り合った。
二人と過ごす最後の日、私たちは「さよなら」ではなく、「また会おうね」と言って別れた。
この秋には、家族で二人に会いに行く予定。
2年前の夏、ふらりと通った路地裏で出会ったご夫婦が、今や私たちにとって家族のような存在に。
生きている限り、“出会い”というのは途切れることなく起こるけど、その中にはこんな風に人生に大きな影響を与える出会いがある。
「一期一会」を大切にすると、人生はより豊かになっていく。