上京してから住んだ街
23歳で上京してきた私が、最初に住んだのは埼玉に住む友人の家だった。8か月ほど居候をさせてもらいながら、派遣社員として働いた。
ある日、何気なく見つけた港区の広告代理店の求人に応募したら、未経験なのにあっさり受かって転職をした。それを機に、友人の家を出て狛江市で一人暮らしをはじめた。
初めての一人暮らしの場所に狛江を選んだのは、私がミスチルのドラムであるJENが好きで、狛江はJENの出身地だったからだ。
東京の土地勘がない私が、「雨のち晴れ」という曲の中に出てくる、「1DK 狛江のアパートには～」のフレーズで覚えた「狛江」という土地を、最初の一人暮らしの場所に選んだのは、上京した田舎者あるあるではないだろうか。
狛江には2年ほど住んだ。とても良い場所だったけど、通勤を考えたらもう少し都内に近づこうということで引っ越しをした。
一人暮らし2部屋目となったマンションと、今住んでいる家は自転車で5分ほどの距離だ。
産後1年ほど、夫の実家で同居生活をした期間以外は、一人暮らし3部屋目も、今のマンションから自転車で10分ほどの距離にある。つまり私は、東京生活24年のうちの20年は、ずっとこの辺で暮らしているということになる。
通い慣れた商店街で見つけたマッサージサロン
一人暮らしをしていたころから考えれば、20年近く、数えきれないほど通っている商店街。
いつものように自転車で走っていたら、いつも行く八百屋の前、いつも行く薬局の2階にマッサージサロンを見つけた。
「こんなところに、マッサージサロンなんてあった？」と思いながら、看板の横にぶらさがっているチラシを1枚取ってカバンに入れた。
寝酒の梅酒でかなり改善した首の痛みだけど、アルコールの力に頼りすぎてはいけないので整えなくてはと思っていたところに見つけた、「血行改善」と書かれたマッサージサロン。
いつできたんだろう？ と思いながら、帰宅してチラシを見て、グーグルマップでチェックすると、なんと、口コミが5.0。
えっ！ すごい！ と思いながら、チラシに書かれたLINE登録をして予約をした。
予約が取れた日、サロンに行くと、優しい雰囲気の男性が扉を開けてくれた。
「ここ、いつできたんですか？ 私、この辺に20年くらいいるんですけど、先週初めて見つけたんですよ」
「ここ、今年で23年になるんです」
「えっっ!!!???」
23年ということは、私がこの町に来た頃にはすでにある。それに、私、目の前の八百屋さんも、下の薬局も今月何回も来ているのに、このサロンの看板が目に入ったの先週が初めて！
「うち、目立たないのかなぁ(笑)」
「いえ、違います」。そう言いながら、心の中で、“私がようやく、ここに来る準備ができたんだ”と思った。
見えていないものが、見えるようになる瞬間
これ、どんな人も、違ったシチュエーションで似たような経験をしたことがあるはず。
何度も何度も通っている道で、ある日突然視界に入ってくるお店があったり、何度も目にしたことがある本だけど、ふっと手に取って読んでみたら思いがけない気づきがあったとか。
見えていないものが、見えるようになる瞬間がある。
これは潜在意識の世界でも、人生の選択でも、すごくよくあること。
夫婦関係、子育て、自分の生き方……。
「もっと早くこうすればよかった」とか、「どうして今まで気づけなかったんだろう」なんて思うことがあるけれど、本当に大切なことって、“タイミングが来ないと見えない”。
このサロンとの出会いは、ある意味、私の人生を大きく変えた。
サロンのオーナーと話していて、「10年前の私も、2か月前の私も、このサロンにはたどり着けなかったと思う。本当に、今だから来られたんだと思う」と思うことがあった。
「もっと早く出会っていれば～」とか、「もっと早く知っていたら」なんてことを、私たちは日々の中でよく口にするけれど、どんなことも、ベストなタイミングで起きているから、それが遅すぎることも早すぎることもない。
気づけなかった過去の自分にもちゃんと意味があったし、そのときの自分に必要な景色を見ていたということなのだ。
見えていない何かを焦って探す必要なんてない。ただ一つ、ベストなタイミングで必要な出会いを得るために必要なのは、自分自身としっかり向き合うこと。
今、自分が何を感じていて、何をしたいのか。誰かのためではなく、自分自身と向き合って、自分の望みに耳を傾ける。
そうすると、そこからまた、人生は変わっていく。
