最初から「無理」とあきらめていませんか?
――子どもは興味があるものを見ると急に走り出したり、いつもポケットの中に物を詰め込んで持ち歩いています。他人の子どもだったら「ほほえましいな」と思いますが、我が子の場合は車にひかれるんじゃないかとか、洗濯機で洗ってほかの洋服が汚れたなど、困ることも多々あります。
高祖常子さん(以下高祖):我が家も3人子どもがいるのでよくわかります。3人が一斉に違う方向に走り出したり、いないと思うと木によじ登っていたりということもありました(笑)。
子育て中は本当にハラハラすることばかりで、ママからしたら「なんで急に走り出すの?」「水たまりの中を歩いたら靴が汚れる!」ということがたくさんあると思います。でも注意ばかりしていたら、子どもの好奇心が伸びないし、何も挑戦しない子になってしまいます。
――こんなときはどうしたらいいですか?
高祖:まずは、危ないことは制するのが基本。そのうえで以下の2つの対応をしてみましょう。
1つは、「できないからやめよう」「危険だからしない」ではなく、「安全にできるようにするためには何をしたらいいか」を考えられるといいですよね。3人連れてのお散歩は危ないから外出しない、ではなくて、車があまり通らない道にする、公園までは車などで移動して公園内では自由に遊ばせる、など。困ったことにぶつかったら、「どうやったらできるか」を考えるために試されているのかもって考えてみるのもいいかもしれませんね。
今回のコロナの件でもそうですが、外出自粛が解除されても「心配だから外で遊んではダメ」といっていたら、ずっと家に籠りっぱなしになります。子どもの行動範囲が狭くなり、体も動かせません。そうではなくて、感染を予防するためにはどんなことに気を付けたらいいのかを考えたうえで、「できることは?」と考えてみるということです。お話しできる子どもなら、清潔習慣についても一緒に心がけるといいですね。
もう1つは、子どものやっていることに親が興味関心を持つこと。子どもが夢中になっていることに対して「へぇー!そんなことあるんだ」「あ、なるほど。息子はそういうふうに思うんだ」と、興味をもって様子を観察してみるのもいいですよ。
1日1個、子どもとやって楽しかったことに目を向けてみて!
――余裕があるときはできるかもしれませんが、できない日も多いと思います。
高祖:これもあれもやらないといけないのに時間がない、ということはよくあります。うちも子どもが3人いますが、3人が同時に違うところに行ってしまうこともありました。そんなときは「なるほどね。みんなそれぞれ気になったことがあったのね」なんてやっていられないんですよ(苦笑)。でもそうなってしまうなら、パートナーと協力するとか、人手を借りるとか、困りごとはどうしたら軽減されるのかを考えてみる。不安や困りごとは、塊にせず、分けて具体的にして、対応方法を考えていくことが大切です。
もう1つ大事なのは、1日一個だけでも子どもと一緒にやってたのしかったことを見つけてみること。「今日も疲れて何もできなかった」「怒っていたか疲れてぼんやりしていただけだった」と思うよりも、1日中笑っているのは難しいかもしれないけれど、1個だけでも子どもと楽しいことをしてみる。「あそこまでママと一緒にかけっこしよう」「一緒にサラダを作ろうね。レタスをちぎるのは楽しいね」とか、またはくすぐりごっこでも、一緒にやって笑顔になれた体験を1つだけでもいいから積み重ねていっていただけたらと思います。
その「楽しい」の積み重ねによって、ママ自身も「子育ての楽しい面」「子どもと笑顔になれたこと」などに少しずつ目が行くようになるでしょう。もちろん、「大変」もいっぱいですが、1日1個、子どもと一緒の「楽しい」を見つけてみてください。
子どもがおもちゃを片づけない。片づけられるようにするためには?
――「部屋を片づけなさい」と毎日子どもに言っているけど片づけないことがあります。そういうときはどう伝えたらいいですか?
高祖:毎日のように同じことで怒っているなら、どうしたらいいかを相談することですね。そのときにも前回の記事でお伝えしましたが「なんで片づけないの!」と怒りをぶつける言い方ではなく、I(アイ)メッセージ(私を主語にする)で伝えてみる。ちょっと落ち着いた時間に相談してみるといいですね。
「ご飯を食べるときに毎日片づけなさいといっているけど、君は片づけてくれないからママはけっこうイライラしちゃうんだよ。君も毎日ママに叱られるのは嫌でしょ? どうしたらいいと思う?」と子どもに聞いてみる。
「でも、たくさんのおもちゃで遊びたくて、片づけたくないんだよ」といわれたら、「でも、おもちゃを片付けてから、ご飯を食べたいよね。どんな方法があるかな?」と相談。「たとえば、おもちゃ1個だけ出すことにするのはどうかな?」と提案してみるなど。
そうはいっても日によって「もうちょっとで完成するから片付けたくないんだ」と言われたら、「でも温かいうちにご飯を食べたいから、いったん中断して、食べ終わったらちょっとだけ続きをしたら」などと、折り合いをつけてみる。
または突然言わずに、ちょっと早めに声を「ご飯できそうだから、そろそろ片付けてね」と声をかける。
あるいは「寝る前にかたづいていればいい」ということにする。「散らかっているけど、そのままご飯を食べ、寝る前に片づけよう」ということにするなど。
親も子も、どのようにしたら心地よく過ごせるかを相談して折り合いをつけていくということです。子どもにも考えを聞き、親子で相談することで、子どもはコミュニケーションの方法を学んでいきます。
少しずつ「怒らなくていい」状態をつくっていこう
毎日怒る、怒られる関係を続けていると疲れてしまいますよね。ママも疲れるけれど、子どももいい気持ではありません。でも、どんなに工夫しても「今日から一切怒らなくてよくなる」ということにはならないと思います。子どもの話も聞きながらベストな方法を探していきましょう。
コミュニケーションによって、解決の糸口を見つけるなんて、「理想的だけれど、現実はそんな余裕ないって」思う方もいるかもしれません。でも、余裕がないのは、心や体が疲れている証拠。そんな時には、ちょっと休憩して、心と体の力を蓄えて。心と体に少しい余裕ができたら、子どもの力も借りながら、工夫して解決していきましょう。
教えてくれたのは 高祖 常子さん
高祖 常子(こうそ ときこ)さん
子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。資格は保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級ほか。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事、ほか各NPOの理事や行政の委員、「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省)構成員(2019年)も務める。子育て支援を中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。著書は『こんなときどうしたらいいの?感情的にならない子育て』(かんき出版)ほか。3児の母。