教えてくれたのは……池江璃花子さんの母、池江美由紀さん
池江璃花子さんの母であり、子どものための能力開発教室、EQWELチャイルドアカデミー本八幡教室代表・講師の池江美由紀さん。著書『あきらめない「強い心」をもつために』(アスコム)では、子育てや幼児教室で実践してきた「池江式教育法」を紹介。
『あきらめない「強い心」をもつために』(アスコム)
著者:池江美由紀
価格:1,540円(税込)
積極的に失敗や苦労を経験させる
親は子どもが心配で、失敗や苦労しないように、つい先回りしてしまうもの。
しかし美由紀さんは、そうした経験が子どもを成長させると考え、子どもたちに、あえて失敗や苦労をさせてきました。
璃花子さんは、3歳で水泳を始めて、5歳には大会に出るようになりました。「まだ、小さいから」「不安で泣いてしまうのではないか」などという心配より、多くの経験ができると、どんどん出場させていたそうです。
「その際の声がけは『出る?』という疑問形ではなく、『出るよ』という断定形です。子どもは尋ねられると迷うものです。肯定語で言われれば、『ああ、そうなんですね』と素直に受け止め、ちゃんとできます」(美由紀さん)
そして、挑戦を乗り越えたときは、心からほめてほしいと美由紀さん。
仮に失敗しても、その挑戦やがんばりをほめること。そして次はもっとできるようになるよ、と声をかけることで、子どもは自信をもち、たくましく成長するといいます。
親はいつまでも子どもそばで、手取り足取り、生き方を教えることはできません。
だからこそ、自分で状況を打破できる大人に育つように、多くの経験を積むことが必要なのです。
「経験を通じて得た自信、そして、つまずいても乗り越えられるという自信は、何ものにも代えがたいものです」(美由紀さん)
始めるのに早すぎることはない
「子どもの挑戦は応援してください。そして、始めるのに早すぎるということはありません」(美由紀さん)
璃花子さんは人一倍、いろんなことに興味をもつ子でした。姉や兄の姿を見ていたせいか、1歳半には逆上がりを、2歳には補助輪なしで自転車に乗っていたそうです。
「水泳では、こんなこともありました。まだ習いたてのころ、クロールの進級テストがありました。璃花子は飛び込むと、クロールではなく、なんと、平泳ぎのような泳ぎを始めたのです」(美由紀さん)
平泳ぎはまだ教わっていなかったので、溺れていると思ったコーチが、急いで璃花子さんのそばに飛び込んだそうです。
「璃花子がなぜ平泳ぎを泳ごうとしたのか、私にはわかりました。クロールのテストの前に平泳ぎのテストがあり、璃花子は、前に泳いだ子どもの平泳ぎの姿をものすごく真剣に、熱心に見ていたからです。きっとクロールのテストということはすっかり忘れて、いつもの練習のように前に泳いだ子どもを真似たのです」(美由紀さん)
美由紀さんは、璃花子さんが周りの様子を、すごい集中力で見ていた結果だと思ったそうです。
困難を乗り越えられる人に育てる言葉「あなたには、まだまだできる力がいっぱいあるよ」
子どもが何かを乗り越えようとしているとき、最大の味方である親のひと言が、大きな支えになります。
「そうしたときにかけてあげる言葉は、『あなたには、まだまだできる力がいっぱいあるよ』です」(美由紀さん)
子どもは「そうか、私にはまだ力があるんだ」と気づき、その言葉と自分を信じて行動に移します。
「また、この言葉は、素晴らしい成果を上げたときにも使えます。たとえば、志望校に合格した、目標としていた大会への出場を決めたときなどです」(美由紀さん)
子どもは「ここがゴールだ」と受け止めてしまうこともありますが、志望校合格も大会出場も、新たなスタートに過ぎません。
「だからこそ、子どもが達成感を感じていそうなときには、その達成感をわかち合い、共に喜びながらも『あなたには、まだまだできる力がいっぱいあるよ』と、今いる地点から将来へと視線を変えさせてあげる必要があります」(美由紀さん)
そのひと言が、目標を達成して燃え尽きてしまわない、天狗にもならない、成長を自ら求める精神をつくるのです。
人と比べるのはデメリットしかない
子どもは一人ひとり、性格も得意なことも違います。それを比べても意味がなく、むしろ、比べることによる害悪が大きいと、美由紀さん。
「もちろん、競争は必要です。明確な基準があり、その基準での優劣を競うことは、子どもにとって刺激にも発奮材料にもなります。負けたら負けたで、どうしたら勝てるようになるか、真剣に考えるようにもなるでしょう」(美由紀さん)
しかし、競争の場ではないところで子どもを比べる必要はまったくないと、美由紀さんは話します。教室でも「誰ちゃんがいちばんできるね」「誰ちゃんより誰ちゃんのほうが上手だね」といったことは、決して言わないそうです。
ただ、誰かがよくない行いをしたら、ほかの子どものよい行いをとびきりほめるそう。すると、どの子も自分もほめてもらおうと、よい行いを真似します。叱らなくても、子どもが自ら気づき、行いが改善されるのです。
「このようなポジティブな競争でしたら、とてもよいと思いますので、職場やご家庭でも取り入れるとよいでしょう」(美由紀さん)
嘘でも100回言えば、本当になる
「たとえ『100%はできない』と思ったとしても『1%ならできる』と思うなら『できるよ』と言い、『完璧には無理』と思ったとしても『ある程度はできる』と思うなら『できるよ』と言いましょう。」(美由紀さん)
それは誇張ではないと、美由紀さん。そのときにできることが1%でも、100回積み重ねれば、「100%できる」になるからです。
「それだけではありません。『できる』『できる』と繰り返せば、それが暗示となって、本当にできるようになることが多いのです」(美由紀さん)
美由紀さんは教室のレッスンを始めるとき、子どもたちに次のような暗示の言葉を言います。
「お父さんもお母さんも、あなたのことが大好き。いつも一緒にいてくれます。あなたがこれから学ぶことは、あなたにスイスイと吸収されます。自分の夢を叶えるために、たくさん勉強して、みんなの役に立つ人になろう」
週に1度でも、12歳までつづけたら、600回は耳にします。こうして積み重なる言葉は、さまざまな体験とあいまって、揺るぎない強い心が子どもの中に植えつけられるといいます。
「『1%ならできる』という前向きな気持ち、『1%でもやった』という自信は、人生を肯定してくれるものだと思います。『ゼロ』と『1%』の差は大きいのです」(美由紀さん)
子どもたちには、ネガティブな言葉をかけるより、ポジティブな言葉をかけ続けることで、自分でできることが増え、あきらめない「強い心」を持つことができるのです。