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幼児教育は"夫婦の試練”である。通学をあきらめたママの苦悩から「円満な育児生活」を考える

家族・人間関係

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 幼児教育は"夫婦の試練”である。通学をあきらめたママの苦悩から「円満な育児生活」を考える

2022.04.16

幼児教育で一番苦労するのは、子どもではなく親である。通わせるだけで気力と体力が削られるため、夫婦間の協力が欠かせない。我が家は忍耐強い夫が幼児教育担当になったことで継続できているが、クラスメイトのAくん夫婦はうまくいかなかった。Aくんのお母さんが漏らした苦悩に触れて、円満な育児生活とは何か考えさせられた。

幼児教室で振り落とされるのは子でなく親

体験レッスン出典:stock.adobe.com

もうすぐ3歳になる息子は、幼児教室に通っている。アスリートや東大生が多く通っている教室だそうで、気軽に体験レッスンへ行った……が、そんなぬるいノリは開始5分で打ち砕かれた。

思うままに動き回る2歳児がひとりで授業を受けられるはずはなく、親は終始同伴だ。となると、だれよりも必死なのは親である。
授業が始まるなり、息子はピンポンダッシュを思わせる素早さで廊下へ飛び出していった。すかさず捕らえて教室に連れ戻し、「うああああ、お外いくううう」と叫ぶ息子とくんずほぐれつ格闘し、押し込むように椅子へ座らせる。
先生に「このカードを見てね~」と言われれば虚空を見上げ、「1つ取ってね」と言われれば全部取り、何の脈絡もなく「バナナが食べたい!」と叫んだ。なんで今?

親子で熾烈な攻防戦を繰り広げ、ようやく大人しくなったところで右の子が押し殺すように「うっうっ」と泣き出し、左の子は踊り出した。荒れ狂う子どもと疲労困憊の親が押し合いへし合いするなか、先生だけが飄々と授業を続行する―――まさに混沌の極み、カオスである。

わずか30分でボロ雑巾と化した私は「幼児教育の成否は親の気合いと覚悟にかかっていたのだ。ワシは気合いも覚悟も足りなかった」と敗北を認めたが、夫はシンプルに授業内容がおもしろかったらしく「俺が連れてくよ」と幼児教室担当になり、淡々と通わせ続けている。

クラスメイトはみなお母さん同伴で、やはり忍耐強く教育熱心な親が集っているようだ。
……と思っていたが、我が夫の存在により、その強い志を挫かれる人がいた。

教室を辞めたAくん。理由はママの苦悩

「Aくん、教室を辞めたらしい」

ある日、教室から帰ってきた夫がそう言った。Aくんは息子と同じ日に体験教室に訪れたクラスメイトで、ここ1か月教室に来ていなかったそうだ。

「えー、やっぱり毎回連れてくるの大変だったのかな」
「5駅先の〇〇市に住んでるって言ってたし、電車で毎週通うのも地味に大変だろうな」
「2歳児を電車に乗せるのって、わりと重労働だもんね」

1時間の授業に同席するのでさえ厳しかった私からすると、5駅も離れた場所からわざわざ土曜日に通学するなんて、もはや修行である。なので「そりゃ辞める人もいるだろ」と深く考えなかった。

歩く女性出典:stock.adobe.com

先日、Aくんのお母さんと駅前でばったり会った。1回しか会ったことがないのに、おかめ納豆の亜種のような私の顔を覚えていてくれたようで、声をかけてくれた。

「息子くん、今も教室に通ってますか?」
「はい、慣れてきたみたいで。私は初回しか行ってないので全然わかんないですけど」

へへへと笑ってみたが、Aくんのお母さんは何とも言えない顔でうすく口元を上げた。

「旦那さん、毎回連れてきてすごいですよね。うちは夫が全然なので……」

Aくんのお父さんは良く言えば放任主義、悪く言えば無責任で、育児にはほぼノータッチらしい。全く何もしないわけではないが、完全に受け身で、言わなければ動かない。

たまには教室に連れて行ってよと頼んだら、
「お母さんばかりの場に俺だけ行くなんて気まずいだろ、仕事で疲れてるし」
と一蹴されたそうだ。

「だから旦那さんの話もしたんですよ。毎回来るお父さんもいるよって。そしたら『マメだなー、俺にはできない』ですって。なんなのそれって怒ったら『そんなに大変なら無理して通わせる必要ないよ。やりたい人だけやればいいんだからさ』って言われて……。
それでもしばらくがんばってみたんですけど、旦那さんの姿を見るたびに『うちの夫はあんななのに』ってモヤモヤして、結局やめちゃいました。結局、私が続けられなかったんですよね」

変な話しちゃってごめんなさい、がんばってくださいねと小さく笑い、A君のお母さんは駅の構内に消えていった。

夫婦生活と育児生活は難易度が段違い。ときにはあきらめてもいい

はたしてAくんが教室を続けられなかったのは、だれのせいなのか。お母さんのせいか、お父さんのせいか。

結局は、夫婦がかみ合っていなかったのだと思う。そういった意味では「ふたりのせい」なのかもしれない。もちろんAくんのお母さんのほうが、Aくんのお父さんよりも頑張っていた。でも、最初に夫婦で体験教室に参加し、お互いが「どこまで頑張れるか」をすり合わせしておくのがベターだったのだ。Aくんのお母さんのためにも。

親子出典:stock.adobe.com

自立した大人2人の夫婦生活であれば、多少のずれがあっても何とかなる。ただ、育児生活はそこに第三者の子どもが加わり、足並みをそろえて並走しなければたやすく転倒してしまう。事実、子育て家庭の離婚率は、子どもが0~5歳の時期に集中しているそうだ。

一方で、「できる方法」を探すのも大事だが、ときには「できない」とあきらめるのも大事だ。みんなが無理せず暮らしていくためには、無理して頑張ろうとせず、教室をやめるのが正解だったのかもしれない。

だからAくんが教室をやめたのはご両親のせいかもしれないが、そのおかげで円満な家庭に戻れたかもしれない。結局、物事は捉え方次第なのだ。教室をやめようとやめまいと、Aくんのお母さんが自分の選択に納得し、「これでよかった」と思えることを願っている。


著者

秋カヲリ

秋カヲリ

だれもが自己受容できる文章を届けたい文筆家。女は生きにくい、だからしなやかに生きたい。 ・著書「57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室」(遊泳舎) ・恋愛依存症に苦しみ、心理カウンセリングを学ぶ ・出産して育児うつを経験、女の幸せを考える ・ADHDなどのグレーゾーンゆえに会社員として適応できず、4社を転々としてフリーランスのライターに ・YouTuberオタクで、YouTuberの書籍編集・取材執筆多数