教えてくれたのは……池江璃花子さんの母、池江美由紀さん
池江璃花子さんの母であり、子どものための能力開発教室、EQWELチャイルドアカデミー本八幡教室代表・講師の池江美由紀さん。著書『あきらめない「強い心」をもつために』(アスコム)では、子育てや幼児教室で実践してきた「池江式教育法」を紹介。
『あきらめない「強い心」をもつために』(アスコム)
著者:池江美由紀
価格:1,540円(税込)
「お手伝い」をしなくても、 親は絶対代わりにやらない
池江美由紀さんは、璃花子さんが小学校に上がる頃に離婚。経営していた幼児教室を切り盛りしながら、ひとり親として長女、長男、そして次女・璃花子さんの3人の子どもを育て上げました。
子どもが小さかった頃、池江家には、ルールがたくさんありました。
「その1つは、子どもたちが毎日、必ず『お手伝い』をすることです」(美由紀さん)
「お手伝い」といえば親のサポートというイメージがありますが、池江家のお手伝いは少し違っていました。それは「家族全員分の食器を洗う」「お風呂の掃除をする」「みんなの洗濯物をたたむ」など、家庭生活においてとても重要な内容でした。
「もしもそのお手伝いをさぼったら、大変なことになります。食器はずっと洗われないままだし、その日はお風呂に入れないし、洗濯物は部屋に山積みです」(美由紀さん)
自分がやらなければみんなに迷惑がかかるし、生活が成り立たない。そんな役割を、美由紀さんは「お手伝い」として子どもたちに与えてきました。
そして、子どもがしなくても、代わりにやることは絶対にしませんでした。
「子どもを叱る必要もありません。ただ、自分の食器も汚れたまま、お風呂にも入れず、散らかった家で生活するという、自らが招いた結果のなかで暮らして、何か感じればよいのです。親が代わりにやるのではなく、『自分がしなければ、こうなる』ということを子どもに身をもって経験させることが大切です」(美由紀さん)
こうした経験を積むことで、子どもは責任をもって仕事をするとはどういうことなのかを理解していくといいます。
反対に、「したらこうなる」というご褒美もありました。
「わが子たちには、幼児教室での課題、おうちでやることの課題、お手伝いなどさまざまな課題がありました。1日にやらなければいけない課題をすべて終えるとご褒美があるのですが、幼いころの璃花子と決めたご褒美は、『ママと一緒に寝ること』でした」(美由紀さん)
こうした約束は、子どもに社会への参加を実感させ、自主性を育てるという点で大きな意味があったといいます。
「家庭はいちばん小さな社会であり、家族はそのメンバー。メンバーみんながそれぞれの重要な役割を果たさないと、社会は健全に動いていかない。それを子どもに教えるのが、わが家でのお手伝いです」(美由紀さん)
お手伝いをさせるには「自主的にやっている」と思わせる
子どもは、どうすればお手伝いを引き受けてくれるのでしょうか。
「じつは、そうむずかしいことではありません。まず、小さいころから『お手伝いをさせてもらえるなんて、すごいことなんだよ』と教えるのです」(美由紀さん)
小さな社会である家庭では、子どもは社会に貢献しなくても生きていけます。でもあえて、「社会に参加したいなら参加もできるよ」「あなたならできるから、やってみない?」と誘うのです。
「うちの場合は3人とも、それで『やる』と言いました。子どもはみな子どもなりに、自らすすんで周りの役に立ち、認められたいという気持ちをもっているのです」(美由紀さん)
また、お手伝いに限らず、やるべきだけれどやりたくないことをさせる場合には、子どもに選択肢を与えるのだそう。
「『〇〇する? 〇〇する? どっちにする?』と投げかけます」(美由紀さん)
嫌なことが並んでいても、子どもはよりましなほうを選べたことで、親に対する優越感が得られます。また、自分で選んだことなので、結果としてやり遂げるのです。
約束を守らなかったらどうなるか、を経験させる
子どもが約束を守らなかった時は、叱るのではなく、そのことの結果を子ども自身に経験させてほしいと美由紀さんは話します。
「たとえば、食事。じつは、璃花子はかなりの偏食で、食べることに時間がかかりました。そこで『食事の時間は○時まで。残してもいいけど、残った分は次の食事で食べてね』と言っていました」(美由紀さん)
食べ物を残す自由は認めるけど、次の食事はそれを食べてからでないと、みんなと同じものが食べられないというわけです。
さらに、子どもが食べている間に遊んだり立ち歩いたりする場合は「食事は遊ばないで座ってするものだから、できなかったら片づけるね」と食事の前に約束する。約束の範囲外になったら、本当に片付ける。
これらを徹底することで、子どもはきちんと食事を終えるようになったそうです。
自分のことは自分でできるように
お手伝いは、身の回りのことを自分でするためのトレーニングにもなります。お手伝いによって、多くのことを経験できますし、効率よく終えるにはどうすればよいかなど、自分で考え、工夫できるようになるからです。
最初はやり方を教えたり、一緒にやったりして、徐々に一人でできるようにします。
「わが家では、子どもたち3人とも、保育園のころから上履きは自分で洗っていましたし、水泳の合宿や遠征の準備も小学生のころから自分でやっていました」(美由紀さん)
こんなこともありました。
「璃花子がランドセルを背負わないで学校に行ってしまったらしく、担任の先生から『璃花子さんが、ランドセルを忘れてしまったようで……』と電話がかかってきました。私の返事は、きっぱり『届けません』。それほど徹底していました」(美由紀さん)
こうした積み重ねで、「自分のことは自分でやる」という生きるうえで基本的なことが、子どもたちに当たり前のように身についていったといいます。
社会に出れば、家庭でのお手伝いは「仕事」になります。家庭という小さな社会の中で「役割を果たすこと」や「約束を守ること」を徹底していれば、家庭の外に出てもそれを当たり前にできる人になります。まずは小さい頃からそれを経験させることが大切なのです。